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「2019年都会を知らない少女:U’s eye」
年々、正月の忙しなさから
遠のいていくような年越しを過ごし、
名残も感じられぬままに喧騒の中心を歩いていた。
1月の空気が耳たぶを紅らめ、
鼻から漏れる白息が、
豆大福の片栗粉のように纏わりついていた。
平日の白昼はさすがに人が多く、
数メートル歩くのも困難だった。
趣味がいつの間にか癖になったように通う、
渋谷交差点のカフェへ流れ込み、
「いつもの」というようにお気に入りを注文し、
2階へ登ると交差点に面した
ガラス張りの窓際席からの人間観察。
梅溪成行(うめたにしげゆき)32歳。
去年まで自営していたIT事業の会社を、
不慮の詐欺(笑)にあい潰してしまった。
それからというもの
再起を図るべく開発に勤しむ
医療系アプリのサンプル研究のため、
半年程度も通い詰めた
人間観察スポットである。
いつものように視界を遮る
抹茶ティーラテの湯気を、
鼻から吸い込みながら
じっと交差点を眺めていた。
窓に薄く映る自分と人ごみとを交互に見ながら、
マグカップに手を伸ばした瞬間。
砂時計の砂が流れ落ちるように
交差する人ごみの中、
明らかに異彩を放つ少女を見つけた。